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重症多形滲出性紅斑に関する調査研究

 薬剤性過敏症症候群の診断のためのTARC検査実施指針

厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)重症多形滲出性紅斑に関する調査
研究班TARC検査実施指針作成ワーキンググループ1

はじめに

 重症薬疹として知られている薬剤性過敏症症候群(DIHS/DRESS)の実臨床での課題の一つは、早期診断が困難な点である。診断基準には、「原因医薬品中止後も2週間以上遷延する」や「HHV-6の再活性化」が含まれているが、これらは急性期には確認できないため、診断基準を満たさないことになる。また、早期の皮膚症状は、通常の薬疹と同様に、全身に左右対称性に多発する紅斑として現れ、播種状紅斑丘疹型、多形紅斑型として始まることが多い。さらに、診断基準にある所見が同時に出現するとは限らず、時期を違えて次々と現れることが多いため、DIHS/DRESSを早期に診断することは、皮膚科専門医にとっても容易ではない。

 このようなDIHS/DRESSの診断上の課題を解決するため、様々なバイオマーカーの研究が進められている。特にTh2型ケモカインであるTARC(Thymus and activation-regulated chemokine)が、有力かつ実臨床で使用可能なバイオマーカーとして注目されている。DIHS/DRESSにおけるTARCの上昇は、皮疹の活動性と相関し、HHV-6の再活性化に先行してみられることから、急性期のTARC値を測定することは、DIHS/DRESSを早期に疑う手がかりとして有用である1)-5)。また、日本皮膚科学会が発行する「薬剤性過敏症症候群診療ガイドライン2023」においても、DIHS/DRESS の早期診断におけるTARC検査の有用性が明記されている6)。TARC検査は、「アトピー性皮膚炎の重症度評価の補助」や「SARS-CoV-2陽性患者の重症化リスクの判定補助」として、すでに実臨床で使用されている。しかし、「薬剤性過敏症症候群(DIHS/DRESS)の診断の補助」として使用する際の具体的な指針はこれまで存在していなかった。

 今回、臨床現場においてDIHS/DRESS診断におけるTARC検査の適正使用を促進するため、本指針を策定した。

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1厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)重症多形滲出性紅斑に関する調査研究班 TARC検査実施指針作成ワーキンググループ
委員長:阿部理一郎(新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学)
委 員:浅田秀夫(奈良県立医科大学医学部皮膚科学)、小川陽一(山梨大学大学院総合研究部皮膚科学)、高橋勇人(慶應義塾大学医学部皮膚科学)、藤山幹子(四国がんセンター併存疾患センター)、中島沙恵子(京都大学大学院炎症性皮膚疾患創薬講座)、濱 菜摘(新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学)、藤山俊晴(浜松医科大学医学部皮膚科学)、水川良子(杏林大学医学部皮膚科学)、山口由衣(横浜市立大学大学院医学研究科環境免疫病態皮膚科学)、渡辺秀晃(昭和大学横浜市北部病院皮膚科)

1.使用する検査
 薬剤性過敏症症候群(DIHS/DRESS)の診断補助を目的としたTARC検査として製造販売承認を取得した体外診断用医薬品を使用すること(※)。TARC量を測定するための検体種は血清とする。なお、トロンビン入りの採血管は測定値に影響を与えるおそれがあるため使用しないこと。
 ※現時点で製造販売承認を取得した製品概要を補足資料として示す。

2.推奨される保険医療機関
 皮膚科専門医もしくはアレルギー専門医が在籍する医療機関での検査を推奨する。

3.対象患者
 重症あるいは重症化の可能性がある汎発型皮疹の患者で、かつ薬疹が疑われる急性期の患者に対して検査を実施する。
 特に薬剤歴や臨床症状から、DIHS/DRESSと他の薬疹を区別することが難しい当該患者に対して行うことを推奨する。以下を参考にして、本検査の適応を検討する。

 本検査の実施を推奨する患者:
 ・ 播種状紅斑丘疹型、多形紅斑型、または紅皮症を呈し、発熱を伴う患者。

4.検査の臨床的位置づけ・実施時期及び頻度

1)検査の臨床的位置づけ
 本検査は、「DIHS/DRESSの診断の補助」を目的としており、現行の診断基準では、本検査結果を確定診断に用いることはできない。すなわち、重症または重症化が疑われる汎発型薬疹の急性期の患者に対して、従来の問診、臨床所見、一般検査に加えてTARC検査を実施することで、DIHS/DRESSの診断の遅れを回避し、適切な診療につなげることを目的とする。本検査によって、DIHS/DRESSが疑われる症例を早期に発見でき、確定診断に必要なヒトヘルペスウイルス(HHV)-6検査の適切なタイミングでの実施や、重篤な合併症であるサイトメガロウイルス(CMV)感染症やニューモシスチス肺炎(PCP)などの感染症への早期の検出・対応が可能となる。さらに、DIHS/DRESSの回復期に見られる劇症T型糖尿病や橋本病などの自己免疫疾患についても、事前に注意して経過観察を行うことで、早期に適切な対応が可能となる。本検査の導入により、急性期における重症薬診の鑑別診断の精度向上が期待され、異なる薬疹型に応じた治療判断が可能になるとともに、従来の臨床所見ではHHV-6検査の実施時期を逃すリスクが高かったDIHS/DRESSの診断が困難な患者の減少が期待される。
 本検査の位置付け及び検査タイミングを図1に示す。

2)検査の実施時期・頻度
 対象患者の急性期に、従来の一般検査に加え、本検査を実施する。DIHS/DRESSでは、皮疹の増悪に伴って血清TARC値が上昇することが多いため、重症あるいは重症化が疑われる汎発型皮疹を呈する場合、DIHS/DRESSでは初回の検査でカットオフ値以上(TARC値:4,000pg/mL以上)となる場合が多い。但し、1回目の検査で血清TARC値がカットオフ値未満(4,000 pg/mL未満)であっても、その後さらに皮疹の増悪が確認された場合には、発症後3週頃までを目安に、再検査を考慮する。すなわち、1回目の検査で血清TARC値がカットオフ値未満(4,000 pg/mL未満)であっても、まれにその後も想定外の皮疹の悪化が見られ、TARC値のピークが通常より遅れることがある。したがって、予期せぬ皮疹の増悪が見られる症例においては、血清TARC値の2?3回目の測定が必要となる場合があることに留意する。
 注意:本検査は急性期のDIHS/DRESSの診断補助を目的としているため、回復期には使用しないこと。また、複数回の測定を行う場合には、その理由を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。

5.結果の解釈

1)判定結果に基づく解釈
成人のカットオフ値: 4,000 pg/mL

 血清TARC値がカットオフ値以上(4,000pg/mL以上)の場合、DIHS/DRESSの可能性を念頭に置き、その他の臨床所見も参考にしながら、中等量〜高用量のステロイド全身投与などの治療を考慮する(ステロイドパルス療法は原則として行わない)。発症後3週間前後で確定診断のためのHHV-6検査を行う。

2)判定上の注意
 以下の患者では、TARC値に影響を与える可能性があるため、判断に注意が必要である。
 重症アトピー性皮膚炎、皮膚T細胞リンパ腫、水疱性類天疱瘡、好酸球性血管性浮腫、移植片対宿主病、プレドニン換算で20 mg/日以上のステロイド全身投与を受けている患者、プレドニン換算で20 mg/日未満のステロイド全身投与を5日間以上継続している患者。
 また、DIHS/DRESSの回復期においては、汎発型皮疹が残存している場合でも、TARC値は急速に下降するため,その解釈には注意を要する。
 なお、DIHS/DRESSの診断については、「薬剤性過敏症症候群診療ガイドライン2023」または「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬剤性過敏症症候群」に記載された診断基準を参照し、他の関連検査および臨床症状も含めて総合的に判断すること。

3)期待する医学的効果
 重症あるいは重症化が疑われる汎発型薬疹の急性期にTARC検査を実施することで、DIHS/DRESS疑いの患者を早期に発見でき、診断精度の向上が期待できる。さらに、薬疹型に応じた適切な検査や治療を早期に行うことで、病態の早期改善、重症化の回避、および死亡率の低減が期待される。
 例えば、従来、DIHS/DRESSを疑わずに他の薬疹や中毒疹として治療されていた症例では、HHV-6検査のタイミングを逃し、原因不明のまま治療に難渋することがあった。また、CMV感染症やPCPなどの重篤な合併症を発症する症例も見られた。しかし、このような症例に対してTARC検査を実施することで、DIHS/DRESSを早期から疑うことが可能となり、適切な検査や治療介入によって予後の改善が期待される。
 さらに、本邦における299例の症例報告をレトロスペクティブに解析した結果、DIHS/DRESS患者にステロイドパルス療法を施行した場合、CMV再活性化率、症状の遷延化率、致死率が有意に高いことが示されている7,8)。また、回復期における自己免疫疾患の発症との関連も示唆されている9)。これらの結果は、選択バイアスが存在する可能性はあるものの、現時点での見解としては、DIHS/DRESSに対するステロイドパルス療法には否定的な意見が主流である。一方、2017年から2019年の全国疫学調査によると、DIHS/DRESS患者全体の23.1%にステロイドパルス療法が施行されている10)。TARC検査の導入により、早期にDIHS/DRESS疑い症例を発見できれば、不必要なステロイドパルス療法を回避することが可能となり、予後の改善が期待される。

(a)本検査導入前

ラモトリギンと薬疹 ―不適正使用に関する注意喚起?

※ 初診時にSJS/TENやMPE/EMと診断された患者が、症状の遷延によりDIHSが疑われる場合、すでにHHV-6検査の適切な時期を逸していることが多い。さらに、経過中にCMVやPCPの検査への注意が不足し、重症感染症の発見が遅れることが多い。

(b)本検査導入後

薬剤性過敏症症候群の診断のためのTARC検査実施指針

※ TARC検査について:初回検査でTARC値が4,000 pg/mL未満であっても、その後さらに皮疹の悪化が認められた場合、発症後3週頃までの間に、最大3回まで再検査を考慮すること。

図1 本検査導入前後の診療フローの変化

文献

1) Ogawa K, Morito H, Hasegawa A, et al: Identification of thymus and activation-regulated chemokine(TARC/CCL17)as a potential marker for early indication of disease and prediction of disease activity in druginduced hypersensitivity syndrome(DIHS)/drug rash with eosinophilia and systemic symptoms(DRESS), J Dermatol Sci, 2013; 69: 38―43.
2) Ogawa K, Morito H, Hasegawa A, et al: Elevated serum thymus and activation-regulated chemokine(TARC/CCL17)relates to reactivation of human herpesvirus 6 in drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms(DRESS)/drug-induced hypersensitivity syndrome(DIHS), Br J Dermatol, 2014; 171: 425―427.
3) Miyagawa F, Hasegawa A, Imoto K, et al: Differential expression profile of Th1/Th2-associated chemokines characterizes Stevens-Johnson syndrome/toxic epidermal necrolysis(SJS/TEN)and drug-induced hypersensitivity syndrome/drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms(DIHS/DRESS)as distinct entities, Eur J Dermatol, 2015; 25: 87―89.
4) Komatsu-Fujii T, Kaneko S, Chinuki Y, et al: Serum TARC levels are strongly correlated with blood eosinophil count in patients with drug eruptions, Allergol Int, 2017; 66: 116―122.
5) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 重症多形滲出性紅斑に関する調査研究(平成29 年度〜令和元年度,令和2 年度〜令和4 年度)
6) 薬剤性過敏症症候群診療ガイドライン策定委員会.日本皮膚科学会ガイドライン.薬剤性過敏症症候群診療ガイドライン2023.日皮会誌.2024;134(3):559-580.
7) Hashizume H, Ishikawa Y, Ajima S. Is steroid pulse therapy a suitable treatment for drug-induced hypersensitivity syndrome/drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms? A systematic review of case reports in patients treated with corticosteroids in Japan. J Dermatol. 2022;49(2):303-7.
8) Mizukawa Y, Hirahara K, Kano Y, et al: Druginduced hypersensitivity syndrome/drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms severity score: A useful tool for assessing disease severity and predicting fatal cytomegalovirus disease, J Am Acad Dermatol, 2019; 80: 670―678.e2.
9) Mizukawa Y, Hama N, Miyagawa F, et al: Drug-induced hypersensitivity syndrome/drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms: predictive score and outcomes, J Allergy Clin Immunol Pract, 2023;11:3169-3178.e7.
10) 黒澤美智子. 薬剤性過敏症症候群(DIHS) 診断基準ガイドライン作成のための全国疫学調査(二次調査分析). 厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業「重症多形滲出性紅斑に関する調査研究」 令和3年度 分担研究報告書.

【補足資料】

製品概要

1. HISCL TARC試薬

1)承認番号:225AAAMX00132000、承認年月日:令和5年7月11日)
※添付文書リンク先:
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/ivdDetail/ResultDataSetPDF/480585_225AAAMX00132000_A_03_01

2)使用目的:血清中ヒトTARC量の測定(アトピー性皮膚炎の重症度評価の補助、薬剤性過敏症症候群(DIHS/DRESS)の診断の補助、SARS-CoV-2陽性患者の重症化リスクの判定補助)。

3)測定

① 測定試料:血清

② 測定原理:化学発光酵素免疫測定法

③ 測定機器:専用の全自動免疫測定装置であるHISCL-5000又はHISCL-800(医療機器)で測定

④ 測定範囲:10〜30,000 pg/mL

⑤ 測定時間:約17分/テスト

4)診断性能(感度・特異度)
重症あるいは重症化の可能性があると判断した汎発型皮疹の患者で、かつ薬疹が疑われるものを対象に、本品がDIHS/DRESSとその他汎発型薬疹の鑑別に有用であるかを検証することを目的として実施した先進医療では、汎発型薬疹患者(59例)のうち血清TARC濃度がカットオフ値(4,000 pg/mL)以上となった症例を本品の陽性とした場合の感度、特異度は、それぞれ83.3 %、88.7 %であった。

薬剤性過敏症症候群の診断のためのTARC検査実施指針

※その他汎発型薬疹:播種状紅斑丘疹型32例、多形紅斑15例、多形紅斑重症型4例、スティーブンス・ジョンソン症候群1例、ウィルス性発疹1例